
「スーホの白い馬」に登場した馬頭琴という楽器の名前を覚えているでしょうか。
感動的な物語に登場するこの楽器、実は想像以上に深い歴史と魅力を持つモンゴルの伝統的な楽器なんです。
今回は、そんな馬頭琴について詳しくご紹介していきます。
きっと知らなかった発見がたくさんあるはずです。
馬頭琴とは何か – モンゴルの民族楽器の基本知識
馬頭琴(モリンホール)は、モンゴルの民族楽器で、弦の本数が二本の擦弦楽器であり、モンゴルを代表する弦楽器です。
別名「草原のチェロ」と呼ばれ、縁起の良い楽器で、モンゴル民謡の伴奏やお祝い事に演奏されています。
ユネスコ世界無形遺産に登録されています。
驚くべきことに、馬頭琴の歴史は古く、2000年以上前から存在したと言われています。
この楽器がどれほど古い歴史を持っているか、考えただけでも壮大です。
馬頭琴の読み方
馬頭琴の読み方は「ばとうきん」です。
しかし、これは実は中国語での呼び方なんです。
モンゴル語で「馬の楽器」という意味であり、楽器の棹の先端部分が馬の頭の形をしているため、日本では中国と同じ馬頭琴(ばとうきん、中国語ピンイン:Mǎtóuqín)として呼ばれるのです。
本来のモンゴル語では「モリンホール(馬の楽器)」と呼ばれています。
馬頭琴の由来と歴史について簡単に解説
馬頭琴の歴史は本当に興味深いものです。
「元朝秘史」、「アルタン・トプチ」、「元史」、「清史」などの歴史書にホールについての記述があり、これらは全て馬頭琴と同じ系統の楽器として記録されています。
さらに驚くべきことに、「東方見聞録」で有名なイタリアのマルコポーロ(1254-1324)は、元の都を訪れ、1291年帰国時に馬頭琴を持ち帰りましたという記録があります。
バイオリンが誕生したのはその300年後だというのですから、馬頭琴がヨーロッパの弦楽器に影響を与えた可能性も考えられます。
馬頭琴の現代への復活
歴史的な要因により、馬頭琴は何度も絶滅の危機に瀕してきたのですが、現在馬頭琴が隆盛を極めているのは、20世紀にジャミアンさんという馬頭琴演奏者が現れたためです。
彼が馬頭琴の教育体系を作り、世界に広めたのです。
また、後述しますが、現在では、馬頭琴を演奏できなくても、ソフト音源を使用すれば、馬頭琴を使った楽曲の制作も可能です。
馬頭琴を作った人は誰か?名曲スーホの白い馬との関係
馬頭琴の起源については、美しい民話が残されています。
馬頭琴の物語 – スーホの白い馬

実際の馬頭琴の材料
物語では白馬の体で作られたとされていますが、元々ヤギや馬、ラクダの皮を共鳴部分に使っていましたが、現在は白樺などの木材を使って作られています。
また、弦はパッと見は2本ですが、実は太い弦には約170本、細い方には約130本の糸が使われています。この糸も昔は馬の尻尾などの毛が使われていましたが、現在はナイロン弦となっています。
モンゴル民族楽器の音楽的特徴とは – 馬頭琴の魅力
馬頭琴の癒しの音
馬頭琴の音色には特別な魅力があります。
その音色は、素朴で深みがあり、やわらかであたたかい音が特徴です。
悲しく、力強く、独特な哀愁にあふれ、どことなく懐かしく、心に響く音が楽しめます。
興味深いことに、馬頭琴の持つたった2本の弦を用いた演奏方法も独特で、下から弦を押し上げるようにして音階を作るのですが、奏でるのは音楽だけではなく、動物の鳴き声や風の音などモンゴルの大自然が生みだすさまざまな音を表現できるのです。
馬頭琴の癒し効果
驚くべきことに、馬頭琴の音色には癒しの効果があると言われています。
モンゴル民族は遊牧民として知られていますが、羊、ヤギ、馬、牛、そしてラクダが興奮した時、馬頭琴を弾くと落ち着くと言われています。
特に初めてお産を経験した家畜が、赤ちゃんを毛嫌いしてお乳をあげなかったり、面倒をみなかったりする事があるそうですが、そんな時に馬頭琴の優しいメロディを聴かせると、赤ちゃんを受け入れ、育児し始めるとのこと。
馬頭琴と二胡の違い
馬頭琴と二胡、どちらも2本弦の擦弦楽器で似ているように見えますが、実は大きな違いがあります。
まず音色ですが、馬頭琴の発する音は低くて沈んだ雰囲気で、音量はかなり小さいのに対し、二胡はより高く透明感のある音色を持ちます。
また、調弦についても違いがあります。
調子合わせは普通の弦引き楽器とは違い、外弦の音は低く、内弦の音は高く、多くは4度の音程で調子を合わせるという特徴があります。
これは馬頭琴独特の調弦方法です。
演奏方法も独特で、よく使われている演奏方法は2種類あり、一つは左手の指の第二、第三節のところで弦を押さえ、もう一つはツメで弦の下から上へと弦を突くやり方があります。
民族楽器が奏でるモンゴル音楽文化とデジタル音源としての馬頭琴
モンゴルの楽器(歌唱技法) ホーミー
モンゴルの音楽文化を語る上で欠かせないのが「ホーミー」です。
ホーミー(モンゴル語でхөөмий、英語表記ではKhoomei)は、モンゴルと周辺地域に伝わる特殊な歌唱技法です。
その最大の特徴は、一人の歌い手が同時に2つ以上の音を出せることにあります。
低い基音(ドローン)を喉から出しながら、同時に口腔や鼻腔を使って高い倍音(メロディー)を作り出します。
この独特の響きは、自然の音—風の音、水の流れ、鳥のさえずり—を模倣したものと言われており、遊牧民の生活環境と深い関わりを持っています。
2010年にはユネスコの無形文化遺産に登録され、世界的にも貴重な音楽文化として認められています。
ホーミーの種類
ホーミーを歌うとき、使うからだの場所によって種類も分かれています。
ツェージニー・ホーミー(胸のホーミー)、ホーロイン・ホーミー(喉のホーミー)、ハマリン・ホーミー(鼻のホーミー)、アムニー・ホーミー(口のホーミー)があります。
興味深いことに、最近の音楽家、とくに馬頭琴奏者たちのほとんどがホーミーに興味をもつようになっています。
ですから、昔よりホーミーを歌う人、ホーミーを使う人、ホーミーのできる人がモンゴルで増えています。
馬頭琴とホーミーは、まさにモンゴル音楽の両輪と言えるでしょう。
馬頭琴のデジタル音源
民族楽器は、ヴァイオリンやピアノのようなメジャーな楽器と違って、DTM(コンピューターで製作する音楽)では、その音源を使用することが中々難しいです。
特に、ホーミーは、到底まねできない技術です。
ここでは、エンジニア目線から、DTM製作者向けに、馬頭琴とホーミーが使えるソフト音源を紹介します。
CHRONICLES BUKHU
こちらは、馬頭琴とホーミーを録音したソフト音源です。
使って見た感想は、馬頭琴やホーミーを演奏する技術がなくても、キーボード入力ができ、直感的な操作で使用することが可能です。
モンゴルの音階を使用しなくても、オーケストラのチェロに変えて馬頭琴を使用してみる、コーラスにホーミーを加えてみるといったアレンジ的な使い方も面白いと思います。
まとめ:馬頭琴とはモンゴルの伝統楽器
馬頭琴は単なる楽器以上の存在です。
チンギスハンの伝統を受け継ぐ騎馬民族モンゴル人の、象徴ともいえる楽器です。
モンゴルの人々は、乗馬とこの楽器を幼い頃から一生懸命練習し、これらを上手にこなすようになって、一人前と見なされるようになるほど重要な文化的存在です。
2000年以上の歴史を持ち、ユネスコ世界無形遺産にも登録されたこの楽器は、モンゴルの大自然の音を表現し、人々の心を癒し続けています。
草原の風、馬のいななき、そして遊牧民の心の声を奏でる馬頭琴は、これからも世界中の人々を魅了し続けることでしょう。
馬頭琴の値段っていくらぐらい?
実際に馬頭琴を演奏してみたいと思った方のために、演奏できるレベルの馬頭琴の価格帯をご紹介します。
価格は品質や材料によって大きく異なりますので、用途に応じて選ぶことが大切です。
実際の価格例
NPO法人北方アジア文化交流センターしゃがぁで販売されているモンゴル国製の馬頭琴を例にすると、プロ向けハイグレード(C54ME)で、材料はネック材:黒檀、共鳴胴正面:トウヒ、共鳴胴背面・側面:カエデを使用した機械式調弦タイプが、ハードケースタイプAで¥167,500、ハードケースタイプBで¥176,500、木箱送付で¥155,000となっています。
その他プロ仕様の馬頭琴

プロが演奏する 馬頭琴 バトウキン 【モリンホール】【モンゴル】【民族楽器】【馬】【擦弦楽器】【伝統音楽】【世界無形遺産】【馬の楽器】【郷愁】
必要な付属品・消耗品
馬頭琴を演奏するためには、本体以外にもいくつか必要なものがあります。
松脂(ロジン):弓の毛に塗る必需品です。弓と弦の摩擦を適切にして美しい音を出すために不可欠。定期的に塗り直しが必要な消耗品です。

バイオリン ヴィオラ チェロ など 弦楽器 ロジン 松脂 松やに 603型 並行輸入品
予備の弦:馬頭琴の弦は消耗品ですので、切れた時のために予備を用意しておくことをお勧めします。現在は主にナイロン弦が使用されています。

馬頭琴のナイロン弦、駒(大)、駒(小)、松脂4点セット

プロのために 馬頭琴 バトウキン 【モリンホール】【モンゴル】ケース付き
調弦器(チューナー):正確な音程で演奏するために、調弦器があると便利です。

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ケース:楽器を保護するためのケースは必須です。ハードケースタイプとソフトケースタイプがあり、持ち運び頻度に応じて選択します。
ミュート:練習時に音量を抑えるための金属製ミュートがあると、時間を気にせず練習できます。
ただし、馬頭琴はそもそも草原に暮らす遊牧民たちの生活の中から生まれてきた楽器です。購入後も細かな調整や手入れが必要な楽器であることを理解し、楽器との対話を楽しみながら演奏することが大切です。
馬頭琴の世界は奥が深く、一度その音色に触れれば、きっとあなたもモンゴルの大草原の風を感じることができるでしょう。